研究紹介- 井龍 康文 -


現生腕足動物殻の骨格記録に関する研究

世界各地より採取した現生腕足動物の同位体組成ならびに微量金属元素について,殻内変異,種間差,個体差を詳細に検討し,その古環境指標としての有用性を厳密に評価する研究を実施している.2012年度は,岩手県大槌湾で採取された現生腕足動物2種(Terebratulina crosseiおよびTerebratalia coreanica)および大韓民国江原道束草市で採取された現生腕足動物1種(Coptothyris grayi)のδ18OおよびSr/Ca・Mg/Caの殻内変異を詳細に分析し,測器記録ならびに生息域周辺の海水のδ18Oおよび微量金属元素との対比を行った.その結果,同殻のSr/Ca・Mg/Caには腕足動物の生理的な効果が大きく影響しており,種間差も大きいことを明らかにした.


琉球列島のサンゴ骨格に記録された海洋環境変動

沖縄県石垣島米原沖で採取されたハマサンゴ骨格の長尺コア(全長約3.8 m)から,過去数百年間のSr/Ca,δ13Cおよびδ18Oの時系列データを季節単位の分解能で抽出し,測器記録との対比や統計学的手法を用いた解析から,同島周辺の海洋環境を長期的に復元する研究を実施している.2012年度までに,コアの上部から約200年間のδ13Cおよびδ18Oの時系列データを取得した.2013年3月には,本コアよりも古い時代のサンゴ骨格の取得を目指して,共同研究者と調査を行った.


統合国際深海掘削計画第325次航海グレートバリアリーフ環境変動で採取されたサンゴ礁堆積物に基づく最終氷期以降の海洋環境変動に対するサンゴ礁の応答

統合国際深海掘削計画第325次航海グレートバリアリーフ環境変動にサンゴモ化石のスペシャリストとして参加し,研究を推進中である.2012年夏(7月3日〜6日)には,グレートバリアリーフ内に位置するヘロン島で開催された2nd Post-cruise Meetingに参加し,それまでの研究成果を発表した.担当している後氷期および更新世の無節サンゴモ化石の検討は順調に進行しており,グレートバリアリーフの無節サンゴモ化石相を明らかにするとともに,無節サンゴモ化石を用いた環境解析でプロジェクトに貢献している.


琉球弧におけるサンゴ礁前線の移動:北西太平洋域での第四紀気候変動に対する高緯度域サンゴ礁の呼応の解明(COREF計画)

COREF計画は,北西太平洋におけるサンゴ礁の分布の北限に位置する琉球列島において,第四紀気候変動に対するサンゴ礁生態系の応答を明確にすることを主目的とするプロジェクトである(Iryu et al., 2006, Island Arc, 15, 393–406).このプロジェクトの科学目的の達成のためには,IODPによる海洋掘削とICDPによる陸上掘削により第四紀サンゴ複合体堆積物およびその沖合堆積物を採取することが必要不可欠である.私は,陸上掘削の実施に向けての活動を担当している.2012年度は,宮古島東方に位置する宮古曽根で行われた海底地形・地質調査で得られた試料の分析を行い,この地域には,琉球列島の主軸(北東—南西方向)に直行する方向に伸びる正断層群が発達し,その活動が26.5万年以降まで続いていただことを明らかにした.


無節サンゴモ化石の分類学的・堆積学的研究

統合国際深海掘削計画第310次航海タヒチ島の海水準で採取された完新世サンゴ礁堆積物中の無節サンゴモ化石の中でも,無節サンゴモに寄生する無節サンゴモの分類学的検討を行った.その結果,寄生種として少なくとも3種を認め,それらのうち2種は新種であることを見出し,報告した(Woelkerling et al., 2012, Phycologia, 51, 604–611.; Phycologia, 2013, 52, 387–397).
オーストラリア東岸のフレーザー島沖で採取されたサンゴモ球にみられる穿孔性生物群集を検討した。その結果,それら深度分布は,従来の見解とは大きく異なり,より深い水深域にまで達することを明らかとし,古環境指標としての有用性を大きく見直す必要があることを指摘した(Bassi et al., 2013, Palaeogeography Palaeoclimatology Palaeoecology, 369, 58–66).


アラブ首長国連邦アブダビ海域における白亜系炭酸塩岩の同位体層序学的研究

アラブ首長国連邦アブダビ沖で得られた全長55 mの連続した炭酸塩岩コア試料の詳細な岩相・生物相記載を行い,前期アプチアンの高解像度の炭素・Sr同位体比層序を確立した.研究を行ったインターバルは海洋無酸素事変1a(OAE1a)を挟んでおり,この事変の前後におけるグローバル炭素循環と古海洋環境の変遷を詳細に描き出すことができた.本研究の成果は,Yamamoto et al. (2013, Geochemistry Geophysics Geosystems, 14, doi:10.1002/ggge.20083)として公表されている.


石灰質ナンノ化石群集に基づく後期新生代の古海洋復元

北西太平洋および東インド洋で掘削された深海コア中の石灰質ナンノ化石を用いて,中新世~更新世の古海洋変遷の復元を行い,両海域における栄養塩レベルの時代変遷を検討した.その結果,両海域とも時代とともに富栄養化しているものの,その過程と時期が異なることを明らかにした.同様の手法を,北西太平洋に位置する沖縄本島南部で掘削された“南城R1(堀止深度2119.49 m)”コア試料に適用し,島尻層群堆積時の古海洋環境復元を行った.群集解析の結果から推定される海洋環境の変化は,島尻層群の堆積相および底生有孔虫に関する先行研究の結果を併せて考察すると,堆積盆地の浅海化に起因すると結論された(Imai et al., 2013, Island Arc, doi:10.1111/iar.12046).
   
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