研究紹介- 伊藤 大亮 -


伊藤大亮の研究

<主な研究テーマ>
- 運動のからだへの有効性の生化学的証明とそのメカニズムの解明

<これまでの研究で明らかになったこと>
- 各種疾患モデルにおいて、長期的な有酸素運動が疾病治癒、降圧、臓器保護(特に腎臓)に有効であること
- そのメカニズムとして、一酸化窒素(NO)系、酸化ストレス系 が一部関与していること

<今後の目標、夢>
- 運動のからだへの影響のメカニズム解明を進めるとともに、疾患バイオマーカーの発見やからだバロメーターツールの開発なども目指す
- これら研究成果により ”元気に長生き” を後押しし、世界中の人々の幸せを高める

URLhttps://researchmap.jp/7000017767/


糖尿病・肥満への運動効果研究①「頑張って運動しても体重減らないの? 太ったままでもいいの? ー研究で分かった意外で面白いことー 」

研究成果内容(プレスリリース記事):下記URLリンクをクリック(先にこちらをご一読下さい)
 運動の減量効果に関して、今回の”糖尿病・肥満への運動効果”の研究では面白いことが分かりました。”2ヶ月間も有酸素運動を続けても減量効果はなかった” のです。むしろ運動をしなかった群よりも運動をした群の体重が重かったのです。”え!?そんなに運動しても体重が減らないなら意味ないやん”と聞こえてきそうです。ではなぜ体重は減らなかったのでしょうか?
 糖尿病では高い血糖に対して、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞というところから血糖を下げるホルモンのインスリンが頑張ってたくさん出ます。その状態が長く続くと、膵臓が疲れてきてあまり出なくなってきてしまいます。インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓、脂肪組織などの細胞に取り込む役割をしていますので、それがあまり出なくなると、栄養(3大栄養素の1つで重要な糖質)のとりこみが低下するということになり、体重が増えない、ということになるのです。
 この研究では週毎に体重や食事量を測り、またブドウ糖負荷試験を行って体内で起こっていることを詳しく解析しました。その結果、運動をしなかった糖尿病肥満群は高い血糖に対してインスリンが不足しており、途中から体重が増えなくなってしまっていたのです。まだ若い、ヒトであれば成長期なので週齢に伴って増えていくのが普通です。食事量が減ったわけではありません、やせ群と比べて何倍もの量をたくさんがぶがぶ食べ続けていました。運動をした糖尿病肥満群も同じぐらいたくさん食べていました。運動をした糖尿病肥満群はたくさん食べた結果の多量の血液中のブトウ糖にちゃんと呼応してインスリンもたくさん出ているので、血液中から各細胞に取り込まれて血糖は正常に保たれており、かつ体重も正常に増えていったのです。
 これらの結果、運動をした糖尿病肥満群が運動をしなかった糖尿病肥満群より最終結果でむしろ体重が重かったわけです。運動をした糖尿病肥満群は正常な成長で体重が増えていったのに対し、運動をしなかった糖尿病肥満群は途中から成長がとまってしまって体重が増えなかったので、運動をした糖尿病肥満群よりも運動をしなかった糖尿病肥満群のほうが体重が少なかったのです。もちろん、いずれの糖尿病肥満群もやせ群と比べたらかなり重い体重でした。
 面白いことに、運動をした糖尿病肥満群はそんなに体重が重いにも関わらず、血糖や脂質など血液の状態や、腎機能や腎臓の中身の状態が、運動をしなかった糖尿病肥満群よりもだんぜん良い状態、正常のやせ群と同じぐらい良い状態であったことがこの研究で分かったのです。”若い高校生ぐらいのフォワードラガーマンが身体を鍛えながらご飯をがぶがぶ食べて筋肉比率の高い、でかい健康体になっていった” イメージでしょうか。ぶくぶく太っていったというより、筋肉質の体に健康的に成長していった、と言えるかもしれません。
 シンプルに言えば、”体重が重くても中身が良ければ良い”と言えます。同じ体重が重い状態でも、運動をすれば良い中身、しなければ悪い中身、というわけです。

URLhttp://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20150915_02web.pdf


糖尿病・肥満への運動効果研究②「外国でよく見るあんなに太っている人、糖尿病じゃないの? 日本人はあまり太れないのはなぜ?  ー糖尿病の人種差についての小話ー」

アメリカなど欧米に行かれたことがある方は、肥満体型の人のビッグさと多さに驚かれた経験があると思います。こりゃあ糖尿病だらけだろうなと思われた事でしょう。しかし日本と欧米の糖尿病罹病率はあまり変わらないそうです。”え!?太ってもあんまり糖尿病にならないの?いいなー欧米人は” と聞こえてきそうです。ではなぜ欧米人は太った人が多いのに糖尿病がそんなに多いわけではないのでしょうか?
 そもそも糖尿病はざっくり言って、血液中のブドウ糖が増えて(高血糖)、それが続いて体のあちこちに悪影響がでている状態です。正常であればある一定の範囲に血糖値が保たれていますが、それが高くなってしまっている状態です。糖尿病はざっくり大きく2つのタイプ、1型と2型があります。2型糖尿病は中高年に多く、運動不足や過食などにより血糖が高くなり、血糖を下げるインスリンの効果が徐々に悪くなっていく病気です。一方1型糖尿病は子供や若い人に多く、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が機能しないことが原因で高血糖になる病気です。メタボリック症候群の糖尿病は2型糖尿病を指します(糖尿病の約95%は2型です)。
 繰り返しますが ”高血糖が続く” のが糖尿病です。したがって当然ですが、(糖質を)たくさん食べてもそれに呼応してインスリンもたくさん出れば、血糖は高くならないので糖尿病にはなりません。そのかわり脂肪組織にどんどん蓄積されるのでもちろん太ります。
 日本人と欧米人の違いは、膵臓のインスリン分泌力です。欧米人の膵臓のほうがインスリンを出す力が強いのです。欧米人はたくさん食べていてもインスリンもたくさん出て血糖は高くなっていないので糖尿病になっていないが、日本人は早い段階でインスリンの量が足りなくなって糖尿病になってしまうというわけです。欧米人は中ぐらいの肥満からさらにがぶがぶたくさん食べて、インスリンもがばがば出て脂肪に蓄積されてどんどん太っていく。血糖は高くなっていないので糖尿病にはしばらくならず、かなり太ってだいぶ経ってから糖尿病になるパターンが多いのです。一方日本人は膵臓のインスリン分泌力が欧米人に比べて弱いので、少し太ったぐらいでもたくさん食べた糖質にインスリン分泌が追いつかなくなって糖尿病になってしまうわけです。インスリンの分泌量も効きも悪くなるのでブドウ糖の取り込みが悪くなって太れなくなっていくのです。
 もちろん血糖は正常で糖尿病ではなくても、脂肪が多いことによる体への悪影響はたくさんありますので、欧米人の糖尿病になっていない肥満も健康体ではありません。


糖尿病・肥満への運動効果研究③「そもそも太っていることは病気なの? ー肥満、肥満症のはなしー」

一般的な体重の話しからです。体重は ”使うカロリー” と ”食べるカロリー” のバランスの結果です。”使うカロリー” は、”基礎代謝(じっと寝てても消費されるカロリー)+ 体を動かして消費するカロリー” です。”使う” と ”食べる” がイコールであれば体重維持です。体重を減らすには使うカロリーを増やすか食べるカロリーを減らすかまたはその両方、つまり ”運動” と ”食事制限” です。基礎代謝は年齢とともに低下していきますので、運動量も食事量も変わらなければ年齢とともに体重は増えていくというわけです。
 体重は重すぎも軽すぎも良くないので、日本ではBMI18.5 - 25 を普通体重、それ以下を低体重、それ以上を肥満とし、”普通体重" を推奨しています。
 ”太っている” のは病気なのでしょうか? 答えは、”肥満により健康障害を呈していれば、肥満症という病気” です。病気ですので診断基準があります。日本の基準では、肥満症を BMIが25~35の肥満症と、BMI35以上の高度肥満症に分け、健康障害と内臓脂肪蓄積がない場合は単にそれぞれ肥満、高度肥満とし、4つのカテゴリーそれぞれに適した治療戦略を提唱しています。
特に合併症の主な要因である内臓脂肪蓄積(CTによる内臓脂肪面積が≧100c㎡)にスポットを当てた内容になっており、内蔵脂肪が正常の大柄スポーツマン(フォワードラガーマンやすもうレスラー)は 肥満"症”とは診断されないことになります。


糖尿病・肥満への運動効果研究④「高齢者の医療費ってそんなにかかってるの? ー高齢者の医療費削減が重要なわけー」

今や発展途上国でも運動不足と食の欧米化でいわゆるメタボリック症候群が急増し、世界中で蔓延しています。メタボから動脈硬化などを介して冠動脈疾患や脳血管疾患に至るので、メタボが原因の病気、それにかかる医療費は莫大です。日本ではメタボによる病気が増えて、高齢化もすすんで医療費がどんどん増えています。ちなみに日本の年間の総医療費はなんと約41兆円です(参:国の国債を除いた年間歳出;約74兆円、日本の名目GDP;約500兆円)。その医療費の約3割、約13兆円は75歳以上の後期高齢者が占めています。高齢者がこれからもどんどん増えていくので医療費もどんどん増えていくのは明白です。今の日本は、65歳以上の高齢者はすでに約4人に1人です。そしてほんの約20年後にはそれが約3人に1人になると言われています。高齢者のほとんどは仕事をリタイアされており、子供はもちろん稼げないので、いわゆる生産年齢人口(定義では15歳以上65歳未満)の稼げる人が子供と高齢者を支えなければいけません。
 ”医療費や介護費がたくさんかかる状態で長生きする高齢者がどんどん多くなる” という点が少子高齢社会問題のひとつです。たくさんの高齢者の莫大な医療費は(後期高齢者はそのほとんど9割を)、少ない健康な若年者が負担(保険)しなければいけないのです。長寿はいいことです、健康で長生きすればいいのです。いわゆる”健康寿命”の延長が大事なのです。健康な高齢者は、医療・介護費も使わないし、働いて稼ぐ(≒税金を納める)こともできます。
 高齢者は自助努力では避けられない老化が原因の病気が多くあります。しかし高齢者より前の若い世代では遺伝的な病気など以外は、原因がその人の生活習慣(運動不足、過食、喫煙など)である病気が多いと言えます。つまり生活習慣病、”メタボ” です。若い時に病気にならなくても、悪い生活習慣が続けば、高齢者になってより早く病気になります。つまり健康寿命が短くなります。メタボ予備軍は若い世代で増えています。そのメタボの代表が今回の研究のターゲット、肥満症と2型糖尿病です。その重要な合併症が腎障害というわけです。


糖尿病・肥満への運動効果研究⑤「肥満や糖尿病のメタボでなぜ腎臓が悪くなるの? ーメタボ治療に運動がコスパに優れているわけー」

近年、肥満症の診断基準項目である ”肥満による合併症” に ”肥満関連腎臓病” が追加されて(2011年)、肥満による腎障害が重要視されています。
 ではなぜメタボになると腎臓が悪くなるのでしょうか。メタボの血液は血糖や脂質が高くてドロドロしています。腎臓は血液を常に大量にザルで濾す(こす)ように老廃物を取り除く仕事をしているので、そのドロドロ血液に長くさらされるとだんだん腎臓が傷むわけです。腎障害が進行すると腎臓が機能しなくなって血液透析(腎臓の主な機能である老廃物を取り除くことなどを体の外で行う治療)が必要になります。腎臓は他の臓器と違い、機能しなくなってもこの血液透析という代替療法があり(常時装着する腹膜透析というのもあります)、生きていけます。それはそれで医学的には素晴らしいことですが、重要な臓器の機能を全て担うものですから、時間がかかり(週3日、1回につき何時間も)、かかるお金も莫大です(月に約40万円、年間約500万円)。患者負担は月に1〜2万円ですので、国・地方の保険や助成によってほぼその年間約500万円がまかなわれているのです(慢性透析患者は約33万人(≒ 年間1兆6千億円!)もいて増え続けています)。そして透析は治す "治療" ではないので死ぬまで必要なのです。
 メタボの人はお薬をたくさん服用します。肥満症であれば脂質が高いので高脂血漿治療薬、糖尿病で血糖が高ければインスリンや経口血糖降下薬、高血圧であれば降圧薬とたくさんのお薬が使われます。お薬は莫大な研究開発費がかかっているので高いのです。これもその7〜9割は健康な人が負担しています(医療保険)。また薬は多くは単数の作用しかなく、いわゆる副作用があります。
 薬物の他に外科的治療、”手術” という治療法があります。腎臓について言えば、透析という代替療法があるとはいえ、他の臓器と同様に ”移植” という外科的治療選択もあります。言わずもがな外科的治療にはリスクが伴いますし、痛いし、医療費も高額です。
 運動療法はこれら薬物や外科的治療と比較して、血糖を下げる、脂質を下げる、血圧を下げる、などたくさんの作用があるにもかかわらず副作用はありません。手術のような痛みやリスクもほとんどありません。医療費も、薬物や外科的治療に比べたら、理学療法士のきちんとした医学的管理の下での運動療法治療でも安いのです。健康な人が疾病予防で自分で行う運動はもちろんタダです。
 以上のような背景があって、プレスリリース記事で書きました締めの一文、 ” 運動療法治療は薬物治療や外科的治療と比較して医療経済面や安全面で優れている点においては、この研究成果の社会的意義の大きさを示していると思われます” につながるわけです。


糖尿病・肥満への運動効果研究⑥「なぜ運動はあまり治療法として確立、普及していないの? ー有能であるがゆえの苦悩ー」

医療の多くはガイドラインに基づいて行われます。ガイドラインは研究によって証明されたことに基づいて決められています。効くかどうか分からない、もしかしたら悪い効果もあるかもしれない、そんな治療は推奨されません。研究が積み重ねられ、有効性、安全性が証明された治療法が推奨されます。証明された度合いによってその推奨の度合いも決められています。この ”根拠に基づいた医療” のことを、俗にEvidence Based Medicine; EBM(イービーエム) と言います。(EBMは科学的根拠以外に、臨床の状況・環境、治療者の経験・技術、患者の意向なども含まれます)
運動療法はその多面的効果ゆえ(たくさん効果があるので何がどう効いているのか分かりづらい)、また治療程度も様々なので(負荷量、時間、種類など)、EBMを高めるのが困難な治療法なのです。
 医療現場ではこんな感じでしょうか。患者さん「先生は運動しなさいっていいますけど、私のこの病気にどれくらい効果があるんですか?いっぱいやりすぎて倒れたらどうするんですか。だいたい運動って何をどれくらいやればいいんですか?」、医師「・・・・」。患者さん「これだけリハビリやってるのに疲れるばっかりで効いてる実感があんまりないんだよねー。ほんとに効いているんですか?これが効くってなんか根拠あるんですか?血圧高くて、お薬飲んで下がれば効いたって実感あって、それに飲むだけで楽だけど。リハビリはきついし。そしてこれお金かかってるんでしょ。自分で適当にやったらだめなんですか?どれくらい続ければいいの?。。。」、理学療法士「・・・・」。答えられないわけではありません、患者個々人で病気の内容が異なりますので考えられる回答は患者によって様々です。しかしお薬の効果のように明確に即答することは困難です。今回取り上げた有酸素運動や筋力増強運動のEBMはひと昔前に比べたらだいぶ上がってきました。しかし、お薬のような明確で高いEBMには残念ながら及んでいません。運動療法治療は、医療経済面や安全面で優れた治療法であるがゆえに、EBMを高める根拠、つまり有効性や安全性を証明する研究が求められているのです。
 そんなに社会的意義が大きいならたくさん研究すればいいじゃないの、と聞こえてきそうです。しかし残念ながらこの運動の有効性の基礎研究分野はまだまだ少数派です。なぜか。色々理由が考えられますが、医学分野の治療法としての ”運動療法” はまだ認知度が低いからかもしれません。日本では医学部で習う治療法は、西洋医学の内科(薬物療法含む)と外科が中心です。お薬や内科・外科治療の研究と比べ、研究者不足と共に、研究費不足も挙げられます。
 これからも地道に、”運動療法の有効性の証明とその機序を基礎医学研究で解明する” ことを研究テーマの一つとし、EBM構築、社会貢献につながるような研究を続けていけたらと思っております。最後まで読んで頂きありがとうございました。
文責 伊藤大亮(ご意見、ご感想、ご指導慎んでお受け致します:dairyoub4@med.tohoku.ac.jp )
URLhttp://www.researcherid.com/rid/F-4682-2015
   
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