研究紹介- 川平 芳夫 -



 私達は、日々刻々、これまでに見聞きしたこともない新しい言語表現を作り出すことができ、また、聞き手はそれを聞いてその意味を正しく理解することができます。このようなことが一体どうして可能なのでしょうか。それは、私達の頭の中には母語に関する「無意識の知識」があって、この知識が、言語表現を産み出したり理解するために必要な全ての仕事を過不足なく行っているためである、と考えることができます。この「無意識の知識」をその言語に関する「I言語(Internal Language)」と呼び、その内容を解明していくことが生成言語学の主要な目標の一つです。
 また、そのようなI言語は一体どのようにして獲得されるのでしょうか。生成言語学では、人間には各言語の原型に相当する普遍文法(Universal Grammar)が生得的に備わっており、この普遍文法と幼児が誕生後に与えられる各言語の僅かな言語サンプルの相互作用によって、各言語のI言語が獲得されると仮定します。そして、この普遍文法の内容を解明していくことが生成言語学のもう一つの大きな目標なのです。
 それでは、一体どのようにすればこのような壮大な課題に立ち向かうことができるでしょうか。
 まず、ある言語の言語事実(すなわち、ある言語において、どのような言語表現がどのような意味をもっているか)をじっくりと観察することから始まります。そして、このようなデータがある程度蓄積されると、それを基にして今度はその言語の「I言語」がどのような仕事を行っている(と仮定する必要がある)かを推論してみるのです。そして次には、そのような仕事を行うためには「I言語」は一体どのような内容(規則体系)を持つ(と仮定する必要がある)かを推論します。と同時に、そのような「I言語」が一体どのようにして私たちの脳の中に存在するに到ったのかという問いに説明を与えられるような普遍文法を平行的に推論していくのです。
 このような生成言語学の分野の中で、現在、私が最も強い関心を抱いているのは、次の諸問題です。

①実際の言語運用に有効なインタ-フェ-ス表示を産み出すには、統語操作(統語構造を生成する操作)がどのように適用すると考える必要があるか。
②日本語と英語の関係節の構造はどのように異なっているのか、そしてそれは両言語の統語操作がどのように異なることによるのか。
③普遍文法における各言語のパラメター、特に日英語の相違を生じさせているパラメターはどのような様相を呈しているか。

 これらの諸問題に関して、私個人の研究活動として取り組みを継続することは言うまでもありませんが、今後は、国際文化研究科言語生成論講座の大学院生諸君と切磋琢磨して問題に対する理解を深め合い、また共通の関心をもつ研究者とも共同で研究活動を行っていきたいと考えています。

   
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