研究紹介- 山田 努 -


陸成炭酸塩堆積物に記録された古環境情報の抽出

鍾乳石やtufaなどの陸成炭酸塩堆積物を用いて,陸上の環境変動を復元する研究に取り組んでいる.鍾乳石は,一般に,形成時の温度,降水量,降水の同位体組成,鍾乳洞周辺地域の植生などの変化を記録しながら,年間10~100µmの速度で連続的に成長する.したがって,鍾乳石の成長軸に沿って同位体組成や金属濃度を連続的に測定すれば,過去の気温,日射量,降水量,陸上植生,水の収支などの変化が解明されることが期待される.現在,琉球列島で採取した鍾乳石を用いた研究を進行中である.


シャコガイ殻の成長線や炭素・酸素同位体比を用いた古環境解析手法の開発とその応用

シャコガイは巨大な殻を形成する二枚貝類であり,インド洋や西太平洋の熱帯-亜熱帯の浅海域に生息している.これらの殻には幅数µm~100µm程度の日輪(成長線)が刻まれており,また,殻を構成するアラレイシの炭素・酸素同位体比はシャコガイの生息環境(水温・塩分・日射量など)を反映して変化していると考えられる.したがって,成長線に直行する方向に連続的に同位体比を分析すれば,生息環境の時系列変化が復元できる.実際に,石垣島で採取した現生のシャコガイ殻の酸素同位体比変化は,生息水温を忠実に反映していた.また,日輪の幅は日積算日射量変化に対応していることが明らかになった.これらの関係をより定量的にするために,水槽でのシャコガイ飼育実験を石垣島およびニューカレドニアで実施し,現在,それらのシャコガイ殻を分析中である.また,琉球列島で採取した化石シャコガイ殻を用いて,過去の環境変化を復元する研究も進行中である.


造礁サンゴ骨格の炭素・酸素同位体組成における'vital effects'の研究

造礁サンゴ骨格の炭素・酸素同位体比を用いて,古環境(水温・塩分・日射量・降水量など)を復元する研究が近年盛んに行われている.しかし,造礁サンゴの多くは体内に共生藻類を持つので,共生藻類(およびサンゴ本体)の代謝活動に伴って,サンゴ体内に取り込まれた炭素および酸素は,同位体分別(‘vital effects’)を受ける.この結果,サンゴ骨格の両同位体比は,海水から同位体平衡で形成されるアラレイシの同位体比に比べ,3~5 ‰程度軽い値を示す.また,この同位体分別の度合いは,同種のサンゴでも大きく変化することが知られている.したがって,共生藻類を持つ造礁サンゴ骨格の同位体組成から精密な古環境を復元するためには,共生藻類の代謝活動による同位体分別のメカニズムの解明とその定量化を行なわなければならない.これらを明らかにするための,石垣島の浅海域に生息する共生藻を持つサンゴ(Porites)と共生藻を持たないサンゴ(Tubastrea)の同位体組成を比較検討する研究を行なっている.


造礁サンゴ骨格の炭素・酸素同位体組成や化学組成の変化を用いた古環境解析手法の開発とその応用

造礁サンゴのアラレイシ骨格の炭素・酸素同位体組成やSr/Ca比・Mg/Ca比は,生息環境(水温・塩分・日射量など)を反映して変化する.また,骨格には樹幹の年輪と同様の,幅~2cm程度の年輪(成長線)が認められる.これらを利用し,熱帯~亜熱帯域の浅海域の環境変動を復元する研究を行なっている.グアム島で採取した造礁サンゴのコア試料(1787年から2000年まで成長)の炭素・酸素同位体比を月分解能で測定し,過去213年間の水温・塩分の時系列変化やENSO(エルニーニョ・南方振動)および十年~数十年周期変動がサンゴ骨格に記録されていることを示した.また,より信頼性の高い古環境復元手法を開発するために,石垣島などで現生サンゴを対象とした研究も行っている.


中新世炭酸塩プラットフォーム(Marion Plateau)の形成と続成史

マリオン海台は,オーストラリア北東のグレートバリアリーフ東縁に位置し,主に中新世に形成された炭酸塩岩/珪酸塩岩混合堆積相からなる海台である.国際深海掘削計画(ODP)の第194次航海では,前期-中期中新世に形成された北マリオン海台(NMP)と前期-後期中新世に形成された南マリオン海台(SMP)の誕生から溺死にいたるまでの歴史や周辺海域の環境を復元する目的で8地点の掘削を行った.このうち,NMPとその周辺域で掘削された3地点(1192,1193,1194地点)の掘削試料を用いて,NMPの形成史・続成史を明らかにするための研究を行っている.これら3地点の掘削試料は,海台中心部で堆積した浅海成炭酸塩岩や海台周辺域で堆積した炭酸塩岩/珪酸塩岩混合堆積相からなる.まず,これら試料の薄片を作製し,観察を進めた.次に,生物組成や続成過程で生じた鉱物の観察を行ない,これらの時空間変化を明らかにした.また,粉末X線回折分析(XRD)による鉱物の同定,Sr同位体比による堆積年代の推定を行なった.現在,蛍光X線分析(XRF)や誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)による微量元素含有量の測定,質量分析計による炭酸塩鉱物の炭素・安定同位体比分析を進めており,これらの観察・分析結果を統合し,前期-中期中新世の海水準変動や環境変動と深いつながりがあるNMPの形成史や堆積物の続成史を明らかにする予定である.


コケムシ骨格の炭素・酸素同位体比や化学組成を用いた古環境の復元

ODP Leg 182(Great Australian Bight)で得られた,更新世~現生のコケムシを用いた環境解析を共同研究として行なっている.コケムシは多様な環境に生息する底棲生物でありが,特に冷水性炭酸塩岩の主要構成物でもある.現生コケムシ骨格の鉱物組成や同位体組成とそれらの生息環境を詳細に検討して,対象としたコケムシ骨格の酸素同位体比は周囲の海水とほぼ同位体平衡であること,これに対して炭素同位体比は同位体平衡から大きく外れるものが存在すること,を明らかにした.さらに,コア試料中のコケムシ化石の酸素同位体比プロファイルは,第四紀の浮遊性有孔虫の酸素同位体比プロファイルと明瞭に対応し,コケムシ骨格の酸素同位体比を同位体層序に使用できる可能性をはじめて示した.


琉球列島の第四紀サンゴ礁堆積物の形成過程と第四紀の気候変動

琉球列島に広く分布する琉球層群(第四紀サンゴ礁複合体堆積物)を構成する各種岩相の空間的配置および層位関係から,現在の琉球列島周辺海域に発達するサンゴ礁複合体堆積物と対応可能な一連の堆積体を,ひとつの層序区分単位として分離・識別し,徳之島の琉球層群の層序を再検討した.また,徳之島以外の島々の琉球層群についても同様の研究を行なっている.
   
戻るこのページのトップへ
copyright(c)2005 Tohoku University